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Monday, December 5, 2011

シンガポールの憂鬱

年の瀬せまるこの時期、皆様におかれてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、下記リンクのロイター紙の報道にありますとおり、シンガポール政府は従来のスタートアップ・ファンドマネジャーに対する原則無干渉の政策を改め、登録制及びファンドの監査を義務付ける新規制を導入する方針を確定しました。


これはアジアのオフショア・ハブ、またファンド・マネジメント・ビジネスの中心たることを目指し、中小ファンドマネジャーに対する優遇政策をとっていた、従来の施政方針からの一定の後退を示すものです。

すでにリーマンショック直後に、アメリカをはじめとする先進国からのプレッシャーを受け、同様の規制強化策を打ちだしていましたが、今回は折からのソブリン・クライシスにより危機感を強めている各国から強硬な圧力があったものとみられています。

手前味噌で恐縮ですが、この件に関しては、つい最近、依頼を受けて以下の通り小文にまとめました。ご笑読いただければ幸甚です。

以上、勝手ながら、今朝のニュースをみて、皆様にお知らせをと思いつき、メール差し上げました。

何かと忙しいこの時期、当地香港も思いのほか肌寒い日が続いております。どうぞご自愛のほどを。

今後ともよろしくお願い申し上げます。




シンガポールの憂鬱

刻一刻と推移する経済情勢と、それをとりまく規制環境のなかで、有効的な資産保全を図るためには、狭い視野から世界をのぞき、既定の枠組みに安穏とするのではなく、つねに高所から大局を観る姿勢と、臨機応変に変化に対応することが必要である、ということは論を待たないでしょう。

いまこうした大局観から世界をながめるに、ヨーロッパをはじめとした先進国の財政危機が進展する昨今、各国政府は「増税」という税収アップの方法を模索するとともに、租税回避の抜け穴を閉じることに血道を上げていることが、明白に見てとれます。

10月15日付の英国エコノミスト紙は、そうした全世界的なアンチ・タックスヘイブンの政策方針を報じています。

なにごとも後手にまわる日本のメディアとちがい、世界の金融市場のポリシー・メイカーとの太いパイプを有するエコノミスト紙の記事は、我々市場参画者にとって、現状の把握のよすがであるとともに、各国政府官僚などの政策遂行者にとっては、市場の反応を見るバロメーター的な役割を果たしています。

同紙の記事にある、スイスとイギリス政府の間における合意(イギリスの納税者が保有するスイス銀行口座に対して、イギリス税務当局の徴税権を認める)は、オフショアをとりまく環境が以前にも増して厳しいものになってきていることを、裏書きしています。

以前はオフショアに対してシャイであった日本政府も、OECDの尻馬に乗っかった格好で(約10数年遅れで)、各オフショア・タックス・ヘイブンの政府との間に租税関連情報の交換に関する条約を締結しつつあります。

こうした世界的な風潮の中で、いまいちばん規制リスクに晒されているのはシンガポールであると断言して、当たらずとも遠からずではないでしょうか。

シンガポールは、自国の政策として、アジアのオフショア・ハブとなることを明言し、これを遂行してきました。著名な投資家ジム・ロジャーズ氏をはじめとし、これに乗じてシンガポールに拠点を構えた投資家、ファンドマネジャーは数知れず。また、そうした資産家の需要を満たすために、プライベート・バンキング産業が発達したことも、皆さんご存知の通りです。

しかし、2008年のリーマンショックに端を発した世界金融恐慌の舞台裏で、シンガポールにおける投資運用ライセンスの無規制ぶりが問題になり、アメリカ政府をはじめとする先進国各国の政府からのプレッシャーにより、シンガポール政府が投資運用ライセンスの規制改正を強要されたことを知る人は少ないのではないでしょうか。

背後におっかない北京の中央政府が控えている香港と違い、シンガポールのアキレス腱はこのような国際的圧力に弱いことです。

現在、シンガポールは、カジノ・リゾート開発で大成功を収めていますが、この背後では、カジノのテーブルの上を素通りしたマネーロンダリングが、かなり大々的に横行しているのではないか、という疑惑がここ数年、周辺各国の関係当局の間では噂から確信に変わりつつあります。とくに、北京政府の視点からみると、自国民、つまり中國の富裕層が、軒下ともいえるマカオで遊んでいるうちは目が届く範囲と安心していたものの、これが目も手も届かないシンガポールまで、地下ルートを通じて資産を持ち出していることに、かなり神経質になっているといわれています。

こうした流れを受けて、今後、近いうちにオフショア・ハブとしてのシンガポールに対する各国政府のプレッシャーが増すことは避け難いでしょう。

もちろん、国運をこのアジアのオフショア・センターとしての選択に賭けているシンガポールが、みすみす自らその命脈を断つことはあり得ません。しかし、シンガポールとの租税情報交換条約の有効性を問題視している先進各国との間に、なんらかの妥協が必要になってくることは、世界を俯瞰する人には自明の理です。

幸か不幸か、日本政府がこの分野で打つ手は、必ずといっていいほど、他の先進国の後塵を拝してやってきますので、なるべく早い段階で情報を得ることにより、対応策をねることが可能でしょう。

その際、資産家の皆さんにアドバイスを提供するものが、いかに即応できるか、有効な対応ができるか、という一大事は、かかるアドバイザーが、常日頃からどれほど広い視野をもって情報を収集し、またそれを処理、消化しているかにかかっているのです。